「新しい機能の開発を担当した」。まず1行、書けました。ここから、次に何をやりたいかは出てきますか。出てこないんです。並べただけでは、そこで止まります。
「キャリアの棚卸し」で調べて出てくる手順は、だいたい同じ形をしています。所属・期間・担当・実績を時系列で並べる。これは正しいです! 職務経歴書を書くならこの形が要りますし、並べる作業自体を飛ばすことはできません。ただ、ここで止まると困ることが1つあります。この記事は、そこを1列だけ足して直します!
「やったことを並べる」で止まると、次の判断には使えません
並べて止まると困る理由はこれです。並んだのは過去の在庫の記述であって、次に何を選ぶかの基準ではないということです。
ここで、この記事のいちばん大事な一文を置きます。次の選択に使えるのは、どういう条件のときに自分は動けたか、という条件の記述です。そしてそれは、出来事の横に理由を書いたときだけ残ります。
前提を1つ足しておきます。棚卸しは、書類を作るための作業であると同時に、自分の判断のための作業でもある。この2つ目を目的に入れると、集めるものが変わります! この記事では棚卸しを「できたことを集める作業」ではなく、自分が動けた条件を集める作業として設計します。集めるものが変われば、使い道も変わります!
入り方は3つ。この記事がすすめるのは事実から入る順番です
棚卸しの入り方は、大きく3つに分かれます。どれが偉いということはなく、いま手元にある材料の量で選ぶものです!
| 観点 | 職務経歴ベース | 時系列ベース | 感情ベース |
|---|---|---|---|
| 最初にやること | 所属・期間・担当・実績を書式どおりに埋める | 入社から今日までを月単位で並べ、覚えていることを置いていく | 「楽しかった」「もうやりたくない」から先に書く |
| 出てくるもの | 提出できる形の一覧 | 抜け漏れの少ない出来事の地図 | 自分の好き嫌いの輪郭 |
| かかる時間の感覚 | 短い(形式が決まっている) | 中くらい(思い出す時間が要る) | 短いか、まったく進まないかに割れる |
| 向いている場面 | 締め切りがある。書類を先に出す必要がある | 次を決めたい。材料を増やしたい | やりたいことがすでに言葉になっている |
| 外したときの戻り方 | 理由の列を後から足せる | そのまま職務経歴書へ畳める | 事実ベースへ切り替える(空欄が続いたら合図) |
3つを見比べたうえで、この記事がすすめるのは事実から入って、理由を後から足す順番です。理由は単純で、社会人3年目前後の人が感情ベースから始めると、空欄が増えやすいからです! 「やりたいこと」は、まだ言葉になっていないことのほうが多い。先に事実を並べると、そこに引っかかりが出てきて、理由が後から言葉になります。
逆に、転職の締め切りが目の前にある人は、迷わず職務経歴ベースで書類を先に作ってください。形式を満たすのが先で、理由の列はその後で足せます。順番は状況で入れ替えて大丈夫ですよ!
入り方が決まったら、次は書く形です。ここからが本体になります。
シートは4列で足ります
列は増やしたくなりますが、増やすほど埋まらなくなります。ここでは4列で止めます!
| 列 | 書くこと | 書き方の例 | 次の判断でどこに効くか |
|---|---|---|---|
| いつ | 年と月だけ。日付までは要らない | 入社2年目の秋 | 思い出す手がかりになる。並べ替えの軸 |
| 何をしたか | 動詞で終える。役職名や体制の説明は入れない | 途中から引き継いだ作業の手順を作り直した | 職務経歴書へそのまま畳める |
| 誰と | 役割だけ(名前は書かない)。ひとりならひとりと書く | 他部署の担当と2人/ひとりで完結 | 自分が動けるのは人が多い場か少ない場か、が見える |
| 自分が動けた理由 | 抽象語で止めず、その場で起きたことまで下ろす | 終わったあとに直接ありがとうと言われたから | 次に何を増やすかを決める基準になる |
そのまま写せる形にすると、こうです。いつ/何をしたか/誰と/自分が動けた理由。この4語を横に並べて、下に10行だけ線を引いてください。シートはこれで完成です!
表の要点はここです! 最初の3列は、4列目を思い出すための手がかりです。4列目の「自分が動けた理由」だけが、次の選択に使える条件の記述になります。
だからこの列は、他人の言葉を借りずに書いてください。「成長できたから」で止めると、どの出来事にも当てはまってしまって、選ぶ基準になりません。「終わったあとに直接ありがとうと言われたから」「手順が自分の裁量で決められたから」まで下ろすと、次に選ぶときの物差しになります!
正直に書いておくと、4列そろえたからといって、答えがひとりでに出てくるわけではありません。ここで増えるのは答えではなく、答えを出すときに手元にある材料の量です。それでも、材料が増えると迷う時間はかなり短くなります!
そして「書くことがない」と感じたときは、経験が足りないのではなく粒度が大きすぎるだけ、というのが僕の見立てです。「プロジェクトを担当した」で1行にすると、3年ぶんが数行で終わります。ここを1日単位まで下ろしてみてください! 困っている人に手順を書いて渡した日、会議の進め方を変えてみた日、質問の仕方を変えたら答えが早く返ってきた日。どれも動詞で終わる出来事です。粒度が細かいほど、4列目の理由も具体的になります。
覚えていない期間は、空欄のままで大丈夫ですよ! 無理に埋めると、そこだけ他人の言葉になります。
僕は書き出したことで、頑張る理由が軸になりました
ここから先は、僕自身が通った順番の話です。僕は2021年、新卒入社を機に石川県から東京へ移りました。同期との出会いに恵まれて、そこから他業界の人とも話して視野を広げたい気持ちが育っていきました。そして社会人3年目、仕事と東京での暮らしに慌れた頃に動き始めたんです!
人生の目的・目標がはっきりしたきっかけは3つでした。人と会う。本を読む。本当に求めていることを書き出す。棚卸しは、この3つ目にあたります。
書き出してから変わったのは、会社での目標に加えて、会社という環境を活かしながら、自分が頑張る理由を軸にキャリアを設計するようになったことです! 順番として先に来たのは、転職するかどうかの結論ではなく、自分の言葉のほうでした。
僕の座右の銘は「知らないと始まらない、知ろうとしなければ始まらない」です。棚卸しは、これを自分自身に対してやる作業だと考えています!
ここは線を引いておきます。僕は、転職エージェント向けに棚卸しをした経験を持っていません。僕がやったのは自分の軸を決めるほうの棚卸しで、書類選考を通すための書き方は僕の一次情報の外です。この記事で扱えるのはここまで、と先に書いておきます。
そして、ここまでは僕1人の経験なのでn=1です。すべての職種・すべての年次に同じ順番が効くとは限りません。それでも、出来事の横に理由を1列足すという形自体は、業種も年次も選ばずに試せるはずです!
うまくいかない4つの型と、この一手が効かない場面
棚卸しが途中で止まるときは、だいたい次の4つのどれかです。先に知っておくと避けられます!
- 完成で満足する型:一覧ができた達成感で終わる。シートは材料であって成果物ではないので、書いたあとに「次に増やすものを1つ選ぶ」までを1セットにしてください。
- 盛る型:転職用に大きく書く。細部を聞かれたときに崩れますし、何より自分の判断材料として使えなくなります。数字は覚えている範囲で正確に、覚えていないなら書かないほうが強いです。
- 一気にやる型:3年ぶんを1日で終わらせようとして初日で止まる。直近3か月ぶんだけから始めると続きます!
- 他人の型に合わせる型:見つけたテンプレの項目名に自分を合わせる。埋まるけれど、4列目が他人の言葉になります。項目は減らして大丈夫です。
そのうえで、この一手が効かない場面も書いておきます。ここを知らずに使うと空回りします。
- 応募の締め切りが目前のとき:形式を満たして出すほうが先です。理由の列は提出後に足せます。
- 記憶が飛んでいる期間があるとき:無理に埋めない。当時の資料から拾えるぶんだけで十分です。
- つらさが長く続いている・眠れない・体調に出ているとき:これは棚卸しの前の話です。ひとりで抱えず、産業医や社内の相談窓口、専門の医療機関など、専門家へ相談してください。
書き出す作業そのものの手順はジャーナリングのやり方に、4列目が埋まらないときの考え方は自分の目的の見つけ方に、そこから先の設計はキャリア形成とはにまとめています。合わせて読むと、この4列の置き場所が見えるはずです!
よくある質問
キャリアの棚卸しシートには何を書けばいいですか?
列は4つで足ります! いつ(年と月だけ)/何をしたか(動詞で終える)/誰と(役割だけ)/自分が動けた理由、の4列です。最初の3列は思い出すための手がかりで、4列目の「自分が動けた理由」だけが次の選択に使える条件の記述になります!
キャリアの棚卸しは何年目からやるものですか?
年次の下限はありません! 1年目でも、担当している範囲の中で「動けた日」は必ずあります。むしろ材料が少ない時期のほうが、粒度を1日単位まで下げる練習になります。見るのは年数ではなく、4列目が自分の言葉で書けているかどうかです!
転職するつもりがなくても意味はありますか?
あります。棚卸しの出口は転職だけではありません! 同じシートは、社内で次にどの仕事を取りにいくかの判断にも、社外で何を1つ始めるかの判断にも使えます。むしろ、動く予定がないときのほうが落ち着いて書けます!
実績に数字がありません。それでも書けますか?
書けます。数字は「あれば強い」もので、無いと成立しないものではありません! 数字が無いときは、誰の何が変わったかを書いてください。前より問い合わせが減った、引き継ぎのときに聞かれる回数が減った。こうした変化のほうが、4列目の理由へつながりやすいです!
どのくらいの時間で終わりますか?
僕は所要時間を測っていないので、時間の目安は出しません(未確認です)。代わりに範囲で決めてください! 直近3か月ぶんだけ、行数は10行まで。ここで区切ると、その日のうちに終わります!